神話
イリス
いりす 別名:Iris意味
イリスは、ギリシャ神話でオリュンポスの神々の命令を運ぶ女神で、虹と同じ名を持ちます。『イリアス』ではゼウスやヘラの言葉を戦場や王宮へ届け、離れた場所の行動をつなぎます。
解説
ヘシオドス『神統記』は、イリスを海神タウマスとオケアノスの娘エレクトラの子とし、ハルピュイアたちの姉妹に数えます。同じ作品でイリスは、神々の間に争いや偽りが生じた時、ゼウスの命を受けてステュクスの水を黄金の水差しで運びます。その水は神々が誓いを立てる際の証しでした。この場面では、遠方から水を運ぶ速さと、神々の誓いを成立させる儀礼上の役目が一つの任務になっています。
『イリアス』第15巻では、ゼウスがイリスをポセイドンのもとへ送り、戦場から退くよう命じます。第24巻では、ヘクトルの遺体を取り戻すためアキレウスの陣へ向かうよう、プリアモスへゼウスの指示を伝えました。『ホメロス風アポロ讃歌』では、デロス島の女神たちに頼まれ、出産の女神エイレイテュイアをオリュンポスから連れてきます。誰が送り、誰が受け取り、どの行動が始まったかを追うと、イリスの役割が見えます。
ボストン美術館の紀元前520-510年ごろの黒像式ヒュドリアには、ヘクトルの遺体を戦車で引くアキレウスの場面を横切る、翼のあるイリスが描かれています。美術館の解説は、イリスを遺体返還の交渉を始める使者と特定しています。一方、『イリアス』本文ではイリスがプリアモスへ命令を届け、その後の危険な道中はヘルメスが案内しました。壺絵は複数の場面を一画面へまとめており、翼ある姿は図像、二人の伝令が分担する順序は物語本文から分かる事実です。