神話

ムネモシュネ

むねもしゅね

意味

ムネモシュネは、ヘシオドスの『神統記』でガイアとウラノスの娘に数えられる、記憶を人格化したティタン女神です。ゼウスとの間に九柱のムーサイをもうけ、記憶を詩歌や知識の継承へ結びつけます。

解説

『神統記』では、ムネモシュネはオケアノス、テミス、クロノスらと同じく、ガイアとウラノスから生まれた世代に並びます。のちにゼウスが九夜にわたって彼女と過ごし、一年を経て九人の娘が生まれました。この娘たちが、歌、詩、知識を担うムーサイです。

同作の冒頭でムーサイは、過去、現在、未来や神々の系譜を歌います。歌を聴く人が苦しみをしばらく忘れるとも記されました。この一節では、伝えるべき事柄を保つ働きと、苦しみから意識をいったん離す働きが並びます。本文では、ムーサイの歌が「苦しみを忘れさせる」作用を担い、母ムネモシュネの名が記憶と彼女たちの系譜をつなぎます。

パウサニアスは、ボイオティア地方のトロポニオス神託所で、相談者が地下へ降りる前に「忘却の水」と「記憶の水」を順に飲んだと記します。戻った人は「記憶の椅子」に座り、見聞きした内容を語りました。これは一つの神託所に伝わる儀礼です。現代の占いで結果を記録する行為と比べると、記憶と言語化を考えるための文化的な参照例になります。古代と現代の手順が直接継承されたかは、別の史料による検証が必要です。