象徴

マダーレーキ

まだーれーき

意味

マダーレーキは、アカネ類の根から得る赤い染料成分を、アルミナなどの無機質の基材へ定着させた透明感のあるレーキ顔料です。油彩の薄い層では、桃色から紫を含む赤までの深みが生まれ、製品名だけでは植物由来か合成アリザリンかを判別できません。

解説

マダーは、アカネ類の根から得る赤色系の染料、またはその染料を生む植物を指す名称です。染料は液体に混ざって使う色材で、絵具の層に留めるには、色素を受け止める無機質の粒子が要ります。その粒子に染料を沈着させて粉末にしたものが、レーキ顔料です。油や卵などの結合材と混ぜると、光が層を通りやすい赤色を作れます。

マダーの根には、アリザリンやプルプリンなどの赤色成分が含まれます。アリザリンとプルプリンは、アカネ類の根から得られる成分の名称です。抽出方法と基材の組合せで成分の割合と色合いが変わり、マダーレーキには橙寄りから紫を含む赤まで幅が生じます。

マダーは、古代のインド、ペルシア、エジプトで織物を染める色材として使われ、ギリシア・ローマでは染料と顔料の両方として知られました。十五世紀から十七世紀のヨーロッパでは、染めた羊毛から得た色材をレーキ顔料にする例が多く、染織の技術が絵画材料の作り方にも結び付いています。

赤色層を材料特定するには、見た目の色だけでは足りません。HPLC(液体クロマトグラフィー)は試料の成分を分ける分析法で、メトロポリタン美術館によるサージェント《Mrs. Hugh Hammersley》の研究では、桃色のベルベットの衣装からマダー由来のレーキ顔料が確認されました。透明な赤色層を明るい下地に置いた構成が、染めたベルベットのような光の質感に結び付いていると研究者は説明します。

光に当たった後の色の残り方は、赤の名前だけで決まりません。ロンドンのナショナル・ギャラリーによる比較実験では、同じ基材で比べた場合、アリザリンやマダー系の色素はほかの赤色レーキより安定する傾向が見られました。一方、錫を用いた基材では変化が大きく、薄い層は濃い層より色が抜けやすい結果でした。作品の赤を読む際は、制作時の色を断定せず、光、層の厚さ、基材も手掛かりにします。

十九世紀後半に合成アリザリンが市販されると、植物由来のマダーは染織での利用が急速に減りました。現在の画材名にローズマダーやアリザリンクリムソンという語があっても、名前だけで根由来か合成色素かは分かりません。保存科学では、色素の成分、紫外線下の蛍光、無機質の基材を照合して候補を絞ります。

占いまたは創作でマダーレーキを読むときは、透明な赤色層を重ねる絵画表現から、表に出た感情の奥にある背景をたどる時間を連想できます。この読み方は絵具の層構造から広げた表現上の解釈です。