哲学・心理

多元的無知

たげんてきむち 別名:pluralistic ignorance・多元的無知効果

意味

多元的無知とは、集団の多くの成員が私的には規範や慣行へ疑問を抱きながら、「ほかの人は支持している」と互いに推測する状態です。個人の態度と知覚された集団規範のずれが焦点になります。

解説

ミラーとマクファーランドは一九八七年、同じ行動をした自分と他者について、その内面の理由を別々に推測する過程を調べました。人は、自分の沈黙を恥ずかしさへの警戒として理解しても、周囲の沈黙を関心や疑問の欠如と読むことがあります。こうした読み違いが重なると、外から見える一致の下に、似た私的態度が隠れます。沈黙そのものを賛成票として数えないことが、実際の規範を知る第一歩です。

プレンティスとミラーは一九九三年、大学の飲酒慣行に対する自分の態度と、平均的な学生の態度についての推測を四つの研究で比べました。学生は概して、自分の方が周囲より不快に感じていると考えました。学期中の追跡では、男子学生の私的態度が、本人たちが集団規範だと誤認した方向へ近づきました。一方、女子学生の態度はおおむね保たれています。この結果は一つの大学と飲酒をめぐる状況に基づき、態度変化には性別を含む条件差がありました。

ブルスティンらは二〇二〇年、サウジアラビアの若い既婚男性の多くが妻の就業を私的に支持しながら、同様の男性から得られる支持を低く見積もっていたと報告しました。実際の支持率を知らせた無作為化介入では、妻の求職を助ける有償サービスへの申込みが増え、数か月後には妻の応募や面接も増えました。規範認識の訂正と行動の変化を結び付けた結果です。効果の大きさは国や争点ごとに検証が要ります。

占いの勉強会や相談方針について意見を集める時は、話し合いの前に匿名で一人ずつ回答してもらい、賛成、反対、判断保留の数を共有します。偽の合意効果は自分と同じ意見の割合を高く見積もる傾向、同調は実際または知覚された規範へ行動を合わせる現象、社会的望ましさバイアスは受け入れられやすい回答を選ぶ傾向です。多元的無知では、各人の私的態度と、その人が推測した集団の態度を対応させます。